肘の痛みとは
肘の痛みとは、肘関節およびその周囲の筋肉、腱、靭帯、骨などが、外傷や過使用、加齢による変性などの影響で炎症や損傷を起こし、痛みや可動域制限、機能低下を引き起こす状態です。
以下の表は、肘の痛みの代表的な原因とその症状、対応策の一例です。
原因 |
具体例 |
症状例 |
対策例 |
外傷 |
肘の捻挫、骨折 |
急性の激しい痛み、腫れ、可動域制限 |
早期の整復、固定、リハビリテーション |
過使用障害 |
テニス肘、ゴルフ肘 |
持続的な局所の痛み、腱炎、放散痛 |
安静、アイシング、理学療法、薬物療法 |
変性(加齢) |
変形性肘関節症 |
慢性的な鈍痛、動作時の痛み、関節の硬直 |
適度な運動、体重管理、理学療法、場合により手術療法 |
主な症状
肘の痛みの主な症状は、局所の痛み(鋭い痛みや鈍痛)、腫れ、可動域の制限、場合によってはしびれや筋力低下が挙げられ、これらは外傷、過使用、変性などの原因により肘関節や周囲組織に異常が生じる結果です。
厚生労働省や国立国際医療研究センターのデータによると、テニス肘やゴルフ肘などの過使用障害は、現代の労働環境やスポーツ活動の普及とともに頻発しており、痛みの持続や可動域制限が生活の質に大きく影響することが示されています。
外傷や過使用によって局所の血流が悪化し、神経が圧迫されることでしびれや筋力低下が現れる場合も多く、これらが複合して症状が多様に出現する根拠となっています。
以下の表は、肘の痛みに関する主な症状とその具体的な現れ方を示しています。
症状 |
具体例・説明 |
関連する原因 |
鋭い痛み |
急性の外傷や捻挫後に、肘の外側や内側に鋭い痛みが生じる |
外傷、急性負荷、急激な動作 |
鈍痛 |
長期間の反復動作による炎症や筋肉疲労に伴う持続的な鈍い痛み |
テニス肘、ゴルフ肘、過使用障害 |
腫れ・炎症 |
肘周囲の軟部組織に炎症が起こり、腫れや熱感が認められる |
捻挫、外傷、腱炎 |
可動域の制限 |
肘を曲げ伸ばしする際に、動きが制限される |
関節内の損傷や変性、慢性の炎症 |
しびれ・筋力低下 |
神経が圧迫されることにより、腕や手にかけてのしびれや筋力低下が生じる |
神経圧迫、血流障害、重度の過使用障害 |
例えば、40代のデスクワーカーが、長時間のパソコン作業による過使用と姿勢不良から、肘の外側に鈍痛と軽い腱炎症状を感じ、さらに腕にかけて軽いしびれがあると訴えたケースでは、診察と画像検査によりテニス肘が疑われ、適切な休息と理学療法、ストレッチの実施で症状が改善された事例があります。
代表的な疾患
上腕骨外側上顆炎
(テニス肘)
上腕骨外側上顆炎は、肘の外側にある腱の部分に、繰り返しの過負荷や反復動作による微細な損傷と炎症が生じ、痛みや筋力低下を引き起こす状態で、早期の適切な治療が症状の改善と再発防止に不可欠です。
長期間にわたる繰り返しの使用(例:テニスやラケットスポーツ、または反復的な職業動作)が、上腕骨外側の腱に微細な損傷を蓄積し、炎症を誘発します。
厚生労働省や日本整形外科学会のガイドラインによれば、上腕骨外側上顆炎(いわゆる「テニス肘」)は、スポーツ選手だけでなく、一般の反復作業者にも広く見られる疾患であり、早期の治療介入が症状の進行を防ぐとされています。
以下の表は、上腕骨外側上顆炎の症状、診断、治療方法の一例を示しています。
項目 |
内容・具体例 |
目的・効果 |
症状 |
・肘の外側に局所的な痛み |
痛みが日常動作やスポーツパフォーマンスに影響を及ぼす |
診断 |
・問診、身体検査 |
病態の正確な把握と、他の疾患との鑑別に寄与 |
治療法 |
・保存療法:休息、NSAIDs、理学療法、ストレッチ |
痛みの緩和、腱の修復促進、再発防止 |
たとえば、40代のデスクワーカーが、長時間のパソコン作業や家事による反復動作で肘の外側に痛みを感じ、診察と画像検査により上腕骨外側上顆炎と診断されたケースでは、保存療法(休息、NSAIDs、理学療法)を実施した結果、症状が改善し、日常生活や仕事に支障をきたさないレベルにまで回復した事例があります。
変形性肘関節症
変形性肘関節症は、加齢や長期の過使用、外傷などにより肘関節の軟骨が摩耗・変性し、痛みや可動域制限、変形を引き起こす疾患で、早期診断と適切な治療介入が生活の質向上に不可欠です。
長年の使用や反復動作、外傷によるダメージが肘関節の軟骨を摩耗させ、変性を引き起こします。
これは、国立国際医療研究センターや厚生労働省の資料でも指摘されており、特に中高年に多く見られます。
画像検査で、関節間隙の狭小化、骨棘の形成、軟骨の劣化などが確認され、これが変形性肘関節症の診断基準となっています。
日本整形外科学会のデータによると、変形性肘関節症は特に50歳以上の人に多く、日常生活における動作障害や痛みの原因として重要な疾患であると報告されています。
以下の表は、変形性肘関節症の症状と診断、治療の一例を示しています。
項目 |
具体例・説明 |
対策・治療 |
症状 |
・肘の慢性的な鈍痛 |
痛みの緩和と機能改善が求められる |
診断 |
・X線検査で関節間隙の狭小化、骨棘形成が確認される |
画像診断により、病変の正確な評価が行われる |
治療法 |
・保存療法:鎮痛薬、抗炎症薬、理学療法 |
症状の軽減、可動域の改善、生活の質の向上を目指す |
例えば、60歳の男性が慢性的な肘の痛みと動作制限を訴え、X線検査で肘関節の間隙が狭くなり、骨棘が形成されていると確認された場合、保存療法(薬物療法と理学療法)を中心に治療を開始し、痛みが軽減し動作が改善されたケースがあります。
肘部管症候群
肘部管症候群は、肘部管内で尺骨神経が圧迫されることにより、肘、前腕、手の一部にしびれや痛みが現れる神経障害で、生活習慣の改善や保存療法、必要に応じた手術療法で症状の改善が期待されます。
長時間の肘の屈曲や反復動作、過度の外力が肘部管内で尺骨神経を圧迫し、神経伝達障害を引き起こすとされています。
厚生労働省のe-ヘルスネットや日本神経学会の資料によると、肘部管症候群は一般成人の約2~6%に認められ、特に反復動作を伴う職業やスポーツ選手に多く見られると報告されています。
臨床症状、問診、そして身体検査(肘の圧迫テストやTinel徴候など)によって、正確な診断が行われます。
以下の表は、肘部管症候群の症状、原因、治療アプローチの一例を示しています。
項目 |
内容・具体例 |
対応策・効果 |
症状 |
・肘の内側の痛みや違和感 |
日常生活や作業に支障をきたすことがある |
原因 |
・長時間の肘の屈曲、反復動作(例:工場作業、デスクワーク) |
肘部管内で尺骨神経が持続的に圧迫される |
治療法 |
・保存療法(休息、アイシング、NSAIDs、物理療法) |
症状の軽減、神経伝達機能の改善、再発防止 |
たとえば、40代の工場労働者が、長時間の肘の屈曲作業により、小指と薬指にしびれや痛みを感じ、Tinel徴候が陽性となったため、肘部管症候群と診断されたケースでは、作業環境の改善と保存療法を実施した結果、症状が著しく改善され、日常生活への影響が軽減された事例があります。
野球肘
野球肘は、野球の投球動作などによる過剰な負荷が原因で、肘の腱や関節周囲に炎症や微細な損傷が生じ、痛みや機能障害を引き起こす過使用性障害であり、早期の治療と休息、適切なリハビリが重要です。
野球の投球やキャッチングなどの動作は、肘に繰り返し大きなストレスを与え、腱の微細な損傷と炎症を引き起こします。
日本スポーツ医学会や厚生労働省の資料によれば、野球肘は若年層や高校生、プロ・アマチュア選手に多く見られ、早期の治療介入が再発防止と長期的な機能維持に寄与することが示されています。
投球動作における急激な回旋と伸展は、肩や肘の腱に極端な負荷をかけ、これが炎症性変化を誘発するという研究結果があります。
以下の表は、野球肘の症状、原因、治療アプローチの一例を示しています。
項目 |
具体例・説明 |
対策・治療 |
症状 |
・肘外側(または内側)に局所的な痛み |
日常動作やスポーツパフォーマンスに影響 |
原因 |
・過剰な投球やキャッチングによる反復動作 |
投球動作による過使用が主な要因 |
治療法 |
・休養と投球制限 |
症状の軽減、再発防止、機能回復を目指す |
例えば、16歳の高校野球選手が、シーズン中に肘の外側に痛みを感じ、診察の結果、画像検査で上腕骨外側上顆炎(野球肘)が確認されました。その後、投球量の制限、休養、理学療法および抗炎症薬による治療を行った結果、数か月で痛みが軽減し、再発予防のためのリハビリプログラムが組まれた事例があります。
肘内障
肘内障(橈骨頭亜脱臼)は、特に小児に多く見られる外傷性の肘疾患で、急激な引っ張りや転倒により橈骨頭が部分的に脱臼し、肘の痛みと腕の使用障害を引き起こします。
迅速な整復処置により、ほとんどの場合、短期間で正常な機能が回復します。
小児の橈骨頭は発育途中で、周囲の靭帯が柔軟なため、急激な外力(手を引っ張る、転倒など)によって容易に亜脱臼が発生します。
日本小児科学会や厚生労働省の資料によると、肘内障は、5歳未満の子供に多く見られ、整復処置が迅速に行われれば、症状は短期間で改善することが報告されています。
小児の肘外傷の中で肘内障はかなりの割合を占めており、早期の診断と適切な処置が重症化防止に寄与することが示されています。
例えば、3歳の幼児が遊び中に大人に手を引っ張られ、突然肘に激しい痛みを感じ、腕を使えなくなったケースがあります。病院で医師による診察と簡易な整復処置が行われ、短時間で肘内障が解消し、通常の腕の動きが回復した事例が報告されています。
診断
肘の痛みの診断は、患者様の詳細な病歴と問診、身体検査に加えて、画像診断を組み合わせ、痛みの原因を正確に特定し、最適な治療計画を策定するための多角的なアプローチが必要です。
以下の表は、肘の痛みの診断プロセスの一例を示しています。
診断プロセス |
内容・評価方法 |
具体例・効果 |
問診・身体検査 |
痛みの発生時期、外傷歴、痛みの部位、可動域、局所の圧痛を評価 |
40代男性がデスクワーク後に肘の鈍痛と可動域制限を訴える |
X線検査 |
骨折、骨棘、関節変形など骨の異常を確認 |
骨棘形成や軽度の変形性関節症が認められる場合、保存療法の指針となる |
MRI |
腱や靭帯、神経の状態を評価し、腱板損傷などを詳細に確認 |
腱板の部分断裂や腱炎、神経の圧迫が明確になる |
神経学的評価 |
反射や筋力、感覚テストにより、神経圧迫の有無を確認 |
神経症状がある場合、原因特定に寄与 |
治療
肘の痛みの治療は、原因に応じた個別対応が必要であり、初期は保存療法(安静、薬物療法、理学療法、姿勢改善など)を基本とし、症状や病変が重い場合はインターベンションや手術療法が検討されます。
肘の痛みは、外傷、過使用、変形性関節症、腱板損傷、神経障害など多岐にわたる原因によって発生するため、症状の原因を正確に把握し、それに対応した治療が必要です。
厚生労働省や日本整形外科学会のガイドラインに基づき、初期の肘の痛みには、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や筋弛緩薬、冷却や温熱療法、理学療法(ストレッチ、筋力強化)が効果的とされています。
保存療法で改善が見られない重症例や、構造的損傷が確認された場合、神経ブロック注射や腱板修復、関節鏡下手術などのインターベンションが有効であると、複数の臨床研究で報告されています。
以下の表は、肘の痛みに対する治療アプローチの一例です。
治療アプローチ |
主な内容 |
目的・効果 |
保存療法 |
・NSAIDs、筋弛緩薬の内服 |
急性症状の緩和、炎症の抑制、機能回復の促進 |
生活習慣・姿勢改善 |
・作業環境の整備 |
長期的な負荷軽減と再発防止、生活の質の向上 |
インターベンション・手術療法 |
・神経ブロック注射、関節鏡下手術、腱板修復術(必要な場合) |
保存療法で効果不十分な症例における根本治療と機能改善 |
例えば、40代のオフィスワーカーが、長時間の作業により肘の痛みと可動域制限を訴えた場合、初期治療としてNSAIDsと理学療法を実施。その後、症状が改善しない場合は、画像検査により軽度の変形性関節症が確認され、インターベンションとして神経ブロック注射を行い、最終的に痛みの緩和と機能回復が得られた事例があります。
肘の痛みでお悩みの方は
当院にご相談ください
肘関節に問題が生じると、腕の動きが制限されるだけでなく、些細な動作も難しくなることがあります。
日常生活における制約が増え、放置すると症状が悪化するおそれがあります。
特に変形性肘関節症については早期の治療が有効です。
肘に不快感や痛みを感じた場合は、速やかにご相談ください。